toggle

顔料(絵の具)

日本画の絵の具は、基本的にメディウムつまり接着剤が入っていないので、(チューブ絵の具を除いて)それを入れる前の顔料だけの状態を指します。ちなみに接着剤とは膠(にかわ)です。顔料、箔、金泥、胡分すべて膠を混ぜて画面に接着します。

1. 岩絵の具(粗い)  
岩絵の具には天然の岩絵の具と新岩絵の具の2種類があります。

  天然の絵の具は、文字どおり、天然の岩を砕いて、精製したもので、美しい発色を示すそうです。(僕はほとんど使ったことがないので、)それに対して、新岩絵の具は陶器のゆうやくのようなものに着色したものを砕いて砂状にしたものです。僕はほとんどこちらの絵の具しか使っていないので、比較はできませんが、これでも十分美しい絵の具といえると思います。新岩絵の具でも写真にある瓶の1両目(15グラム)で1000円以上しますが、天然のものはさらに高価です。どうしても天然にこだわるなら、使ってみるのもいいかと思いますが、宝石を画面に塗り付けているような、緊張感が楽しめると思います。(笑)

2. 岩絵の具(細かい)
 こちらも、1と同様の岩絵の具ですが、なにが違うかと言えば、お分かりのように、色が明るくなっています。と、同時に粒子が細くなっているのがお分かりでしょうか。日本画の顔料は基本的に荒い絵の具が色が暗く、細かい絵の具が明るくなっています。これは岩を砕いたものを水に浮かべ、底に沈んだ粒子から上澄みまでを15段階くらいに分け、それぞれを番号で呼んでいます。例えば、群青5番とか、群青12番とかと言った具合に。良く使われるのが、5番、7番、9番、12番、白(びゃく、白は一番細かい粒子のもの)あたりです。もちろん、その間もあるので、さまざまに選べるところが楽しいところだと思います。

 この粒子の大きさが、同時に色の濃さになっていて、荒い粒子と細かな粒子の使い分けの工夫が、大きな日本画の特徴になっていいるようです。油絵の具や水彩絵の具にはない性質です。

 したがって、暗い色を塗ろうとすると、必然的に粒子が荒くなり、画面が透けたようになりますし、逆に、明るい色を塗る時にはべたっと画面が埋まったように見え、不透明な感じになります。その辺を考えながら、自分なりに絵の具を工夫する必要があるかもしれません。さらに言えば、それぞれの作家の技法の腕の見せ所になっていると言えるかも知れません。

 一例を挙げますと、以前NHKで出演していた中島千波さんの技法を紹介しますと、例えば葉っぱを塗る時に、大胆に絵の具を葉っぱの輪郭線内にどぼっと落とし込み、それを画面を揺らしながら、均一にのばしていました。こうすれば、確かに、均一に絵の具は塗れるのですが、ただ厚く流し込むために、下地の色は消えてしまいます。

 それに対して、伊藤髟耳さんは薄く溶いた絵の具を何十回と刷毛で塗重ねるそうです。そうすることで、下地の絵の具と上から重ねた絵の具の微妙な重なり具合が美しい絵肌を作ってくれるそうです。(これは御本人から伺いました。)
 
 日本画の技法と一言で言っても、たっぷりと流し込んで塗る技法と、薄く何度も重ねて塗る技法では、全然別の技法です。油絵の具などが、数百年に渡る材料の開発と進化で、技法もある技法に収斂したのに対して、日本画の技法は、その意味で個別に楽しめるのかも知れません。(油絵の具もいろいろな技法があるにはありますが)

3. 水干絵の具
 これは顔料を溶解して、何度も水洗い干し上げた絵の具だそうです。岩絵の具のような粒子がないのが特徴で、水彩のような使い方ができるので、まず、日本画に慣れたい人は、最初はこの水干絵の具で描いてみると描きやすいかも知れません。発色は岩絵の具にくらべると、粒子のない分やや劣ります。粒子のある岩絵の具に慣れてしまうと、やや物足りないと感じる人もいるかもしれませんが、粒子のないところをうまく使って、粒子のある岩絵の具と組み合わせると、いろいろな技法の幅ができるように僕は思うのですが。と言っても、僕はどちらかというと、5番目のチューブの絵の具を使ってしまいます。やはり便利なので。

4. テンペラ絵の具
 もともと西洋では、油絵の具が開発される前はフレスコ画やテンペラ画が描かれていたわけですが、そのテンペラに使われていた絵の具も、にかわと一緒に溶くことで、日本画の絵の具として使えます。こちらも水干絵の具と同様に粒子が細かいので、特に暗い色の粒子の細かい絵の具を使いたい時などにはいいかと思います。テンペラ絵の具には染料系や顔料系などありますので、染料系は褪色などには気をつける必要があるのと、染料系を顔料系と混ぜる場合、染料系は上に浮いてしまい、分離しますので、そのあたりもやりながら考えてゆく必要があるかもしれません。いずれにしましても、発色と粒子の扱いやすさを考えると、使ってみるのもありかと思います。

5. 練り絵の具(チューブ入り絵の具)
 顔料を溶いてチューブに入れてありますので、なんと言っても便利。特に下地を作る時と、面相筆で細かな部分を描いていく時には、これが活躍します。が、発色は岩絵の具にかないませんので、絵の具の美しさで見せたいようなところはだめかもしれません。

絵の具と同量の膠を皿に載せます。上から膠をのせるというより、絵の具を囲むように膠を落とします。膠が多いとやにっぽくなりますし、少なすぎると剥落の原因となります。

絵の具と膠を混ぜますが、細かい絵の具だと膠の上に浮いてしまいますので、皿を傾けて、膠をはじから少しづつ混ぜてゆきます。人指し指を中指の上に載せ、中指で混ぜます。水で薄める場合、膠を混ぜたのちに水を加えます。粒子の周りをまず膠で包むことが大切です。その後、水でいくら薄めても大丈夫です。

(朱)
どの絵の具も基本的には同じですが、朱を混ぜる時には、膠を混ぜた後に水を入れ、しばらく放置しておきます。絵の具が沈澱してきたら、上澄み液を捨てます。

(金泥)
金泥の場合は、膠を入れて練った後に、軽く熱を加え、水分をとばします。一度冷ました後、また、膠を加え、また水分をとばします。3回くらいくり返すと、金泥がいっそう輝いてきます。僕の場合は、電熱器だと熱が強すぎるので、鍋の保温器の上に載せて、水分をとばします。冷ます時間がない時には水をはったボールの上に皿を浮かせるとすぐに冷めます。